「え えか?おれの言うた通りに聴くんやど」

workin'

『Workin'/With The Miles Davis Quintet』(vicj-23506)●Miles Davis(tp)Jhon Coltrane(ts)Red  Garland(p)Paul Chambers(b)Philly Joe Jhones(ds)
May.11,Oct.26,1956▼①It Never Entered My Mind②Four③In Your Own Sweet Way④The Theme(take 1)⑤Trane's Blues⑥Ahmad's Blues⑦Half Nelson⑧The Theme(take 2)





「モダン・ジャズの金字塔!」

ジョン・コルトレーンを含むオリジナル・クインテットの演奏による56年録音作。プレスティッジからCBSにレーベルを移籍しようとしたマイルスであったが、プレスティッジ との間にはいまだ契約が残っていた。残った契約を消化するため、バンドは5月と10月に一日づつスタジオに入り、わずか二日でアルバム4枚分のセッションを録り終えるという離れ業をやってのける。

この俗に言う“マラソン・セッション ”から生まれた4連作のうちの1枚 が本作だ。人気曲「マイ・ファニー・ヴァレンタイン」が収録されている『クッキン』やその当時のライブ演奏をそのまま収録した様な『リラクシン』に比べ人 気はやや劣るものの、本作の聴き所は多い。レッド・ガーランドの雨だれのようなアルペジオにのせ、ミュート・トランペットをリリカルに吹く①、オリジナル のハード・バップ・ナンバーである②や⑦で聴ける各人のソロ、自らとコルトレーンを排したピアノ・トリオで、当時のフェイバリット・ミュージシャンである アーマッド・ジャマルのオリジナル・ブルースを演奏させる⑥など各曲単発で聴いてみても十分に興味深い演奏なのだが、本作の魅力はアルバム1枚を1つの作品としてみたところにある。

マ イルスは、当時のジャズ・マンとしてはレコーディングを作品として重要視していたことで知られる。中でも本作はただ単にセッションを収録したのではなく、 一つのレコー ディング作品として仕上がっている印象が強い。バラード・バップ・ブルースといった選曲のバランス、各曲の魅力を倍増させる曲順、またA面、B面それぞれのラストにチェイサー・チューンを演奏し、アルバム全体 をまとめている点など意識的にマイルスがそう創り込んでいたことがうかがえる。聴いているものを飽きさせず、よくまとまっていて聴きやすい、ファン以外や 入門者にもオススメできる1枚だ。


on the corner

『On The Corner/ Miles Davis』(SRCS 9719)●Miles Davis(tp)Dave Liebman(ss,ts)Carlos Garnett(ss,ts)David Creamer(g)Michael henderson(b)Jack DeJonette(ds)Badal Roy(tabla)&others, Jun.1,6,7,1972▼①On The Corner②New York Girl③Thinkin'one Thing And  Doin'④Vote For Miles⑤Black Satin⑥One And One⑦Helen Butte⑧Mr.Freedom X





「四半世紀を経てやっと理解されるアルバム」

ジャズなど全く興味のない若者にこれを聴かせたらどう思うだろう? 「このアルバムはモダン・ジャズで一番エライラッパ吹きのアルバムなんだよ」なんて説明したら、きっと混乱してしまうんじゃないだろうか。「これがあの古 臭くて地味な音楽!?」 なんて驚く顔が目に浮かぶ。日頃、ジジ臭いと蔑まれているジャズ・ファンの溜飲が下がるというものだ。タブラやシタール奏者などをたくさんのゲストを招き 製作された、ボアダムス・ファンに聴かせても負ける気がしない(?)凶暴なリズムを持つこのアルバム、実は…というか、やっぱり! とんでも ない問題作なのである。

こ のアルバムの主役は、プロデューサーのテオ・マセロによるテープ編集だろう。本作はこのテオ・マセロによる、今でいうサンプリング感たっぷりのテープ編集が 徹頭徹尾施されている。恐れ多いはずのジャズの帝王の演奏テープをがんがん切り貼りしているんだから、当時の感覚としてはとんでもない奴だ。(①の00:16″あたりにかすかに聴こえるサックスのフレー ズとその後1:30″あたりのサックス・ソロを聴きくらべてみ て)もちろん録音された72年 当時にサンプラーなど存在しないし、そんなことを許すジャズ・ミュージシャンは他に誰もいない。つうか、今でもほとんどいない。ロックに裾野を広げてみて もこの当時にこんなことをやっているのは、編集の量で言えばフランク・ザッパ、やや大人しいながら感覚が近いというところではレッド・ツェッペリンやビー トルズくらいになるのだろうか?また本作は8曲それぞれキチンとタイトルがつけられているものの、聴いてみると その実、①と④の2曲とそのバージョン違いで構成されているマキシ・シングル、あるい はリミックス・アルバムとも言える内容になっている。現在の雰囲気でさらっと説明してしまったが、これが発売された当時はこの感覚が全く理解されなかったで あろうことは想像に難くない。マイルス、72年のリミックス盤。四半世紀を経た今が丁度聴き頃かもしれない。


love scenes

『Love Scenes/Diana Krall』(MVCI-24004,Jap.)●Diana Krall(vo,p)Christian McBride(b)Russell Malone(g)relesed at Aug.11,1972▼①All Or Nothing at All②Peel Me a Grape③I Don't Know Enough about You④I Miss You So⑤They Can't Take Away from Me⑥Lost Mind⑦I Don't Stand a Gohst of a Chance with Me⑧You're Getting to be a Habit with Me⑨Gentle Rain⑩How Deep is the Ocean(How Hight is theSky)⑪My Love Is⑫Garden in the Rain⑬That Old Feeling⑭Another Spring




「女性シンガーを大きく成長させたトリオ」

あ のオヤジ・シンガーのエルビス・コステロと結婚!今や女性ジャズ・ボーカルの第一人者として確固たる地位を築いた感のある、ダイアナ・クラール。本作はそ の彼女が当時在籍していたカナダのローカル・レーベルから名門インパルスに移籍しての第一弾アルバム。ということで、製作体制も超豪華。プロデューサーに あの『ブリージン』のトミー・リピューマを迎え、バックには今や語り草となっている(解消されたのが惜しい!)最強メンバーによるトリオ。本作の伴奏は全 て、超売れっ子ベーシストのクリチャン・マクブライトと職人的な美味さも持ち合わせたギタリスト、ラッセル・マローン、それにクラール自身によるピアノで 演奏されている。

よ く知られていることだが、このトリオは本作以降しばらくレギュラー・トリオ化していく。マクブライトが同世代のミュージシャンとレギュラーで、しかも歌伴 をする。ファンにとってはとても幸せな体験だった。そのご相伴に預かったのはファンだけでなく、もちろん彼女もそうだったに違いない。ともすれば、その金 髪の端麗な容姿からアイドル的に扱われ、多数のゲストを招いた焼畑農業よろしくその場限りの派手な売れ線アルバム(そう、あのジョージ・ベンソンの有名作 みたいな)を作らされたとしてもおかしくなかったはずだ。地味な編成ながらも、実力派メンバーとじっくり練り上げた演奏が、彼女を大きく成長させたであろ うことは想像に難くない。まさに本作はダイアナ・クラールにとってターニング・ポイントたる1枚 だったと言えるだろう。また、それはマローンとて同じこと。既に有名であったマクブライトと違い、当時いまだ勢いのある若手ギタリストの一人だった彼が彼 女とともにキャリアを積み上げていく様はファンを爽快な気分にさせてくれた。ダイアナ・クラールのその後の進路を決定づけ、ラッセル・マローンの実力を引 き出し、ファンにクリスチャン・マクブライトのベースをたくさん聴かせるというプレゼントまでつけてくれた。これ、リピューマがプロデュースした部分はど こなんだろうか。ちょっと気になる。